公的機関が食関係のプロジェクトを主導する時、アドバイザーだけではなくディレクター役を据えることが大切です。

全国の自治体や商工会等の公的機関が様々な地域活性事業には食をテーマにした事業も多く見受けられ、地域資源を活用した商品開発や、食をテーマにした観光ソフト開発も多く動き出しています。

食をテーマにした事業の成功事例とされるものは、商品名やプロジェクト名を耳にするだけで「あーあー!食べたことあります!」とか、「そのイベント、行ったことあります!」と多くの方にとって共通の経験になっていて、再生産→販売→売上の実現→再生産…のサイクルが回っているものです。

また、多くの方の共通記憶ではなく、特定のタグを持つ方に長く愛してもらえる存在たる商品やサービス。こちらもまた数多く誕生しています。幸い、自分もこうした事業にお招きいただくことが多く、公務員時代から数えて10年以上に渡って商品開発やプロモーションに取り組んできました。

ですが、一方でまったく耳にしないまま、フェードアウトしてしまうプロジェクトも多々存在します。こうした事業にアサインした(あるいはされてしまった)事業者の方からお話を伺う中で、「行政機関が事業でしくじる時って、こういうこと多いよね。」というものが見えてきました。

それは、行政機関特有の要因だったり外的要因だったり。一つに絞られることは少なく、いくつかの要因が組み合わさっていることが多いものです。

小さな土台づくりの段階にできた隙間から上に積み上げる建材が歪み、ジワリジワリと大きな揺れとなり最後に崩れてしまう。いっそのこと、崩れてしまえばイチからやり直せるのですが、グラグラとしたままで存在が残ってしまう。これが一番悩ましかったりします。

そこで、将来の自分へのチェックリストの意味も含めて、約10年の中で経験してきた「しくじる時にありがちな理由」を残すことにしました。

◆プロデューサーは公的機関、ではディレクターは…誰?

予算調達や管理といったプロデューサー役は公的機関の方です。所属部署の職務内容を元にして事業を設計し、予算査定担当者や補助金交付申請先に対して「こうした問題点を解決するために、こうした事業に取り組むべき」というプレゼンを行い、幹部や知事査定を経て議会で承認される。

前年度内に行われるこうした経緯によって、自主財源や補助金といった財源が確保され、新年度の事業は始めてスタートラインに立つことができます。

ここで、公的機関の方がぶち当たるのが人事異動の壁です。

公的機関の多くは、4月1日をもって現職からの人事異動を発令し、事業に関する予算要求を行った職員から、まったく縁もゆかりもない職員さんに異動した場合、事業のプロセスが理解されないまま、時計の針が進まざるをえないことも多々あるものです。

もちろん予算要求時に作成された事業計画書には、スケジュールが書かれているのですが、それは12か月の中でおおまかな流れを示したもの。実は、ガントチャートのように詳細なものを作れる職員は以外に少ないものです。

その理由にはいくつかあるのですが、「自前で一から事業を構成するパーツを作ることが少なく、大半が外注で行われているから。」というのが大きいと感じます。

◆プロデューサーがディレクタースキルを持っているかといえば、必ずしもそうではない。

そもそも、公的機関の方はプロデューサー役を担うことが多く、自らが作業をする方のほうが少数派です。(普通にイラレを使ったりプログラムのソースを書く方もいましたが、特に事務官とされる方に多く見られる傾向です。一方、採用区分が専門技能系の方は自らが作業をするケースも多く見られます。)

例えば、ウェブサイト制作が事業仕様に掲載されていても、サイトデザインや色決め、独自ドメインの取得、ソーシャルメディアアカウントの取得やバナー制作といった、細かい作業プロセスの話をした際に、

「へー、そんなことまで必要なんですね。」

といった反応をいただくことが多いものです。

もちろん、プロセスを理解してもらいつつ、こうした作業を担うのがプロの責務ではあるのですが、あらかじめこれを理解いただき、起こりうる問題点も共有できる方が公的機関の中にいれば、受託する側にとっても心強いものです。(逆に、公的機関の方は先立って作業プロセスを詳細に理解することで、外注業者の手抜きを防ぐ効果が生じます。「やるべきことをやってない!」と言えるのですから。)

◆アドバイザーはディレクターにあらず。

また、こうした事業には「アドバイザー」と呼ばれる方がアサインされることも多く見られます。自分もこの立場でお声がけいただくことが多いのですが、事業仕様に目を通しアドバイザーとして役割を理解しようとした時に、

「あれ?この事業って誰が仕切るの?」

という疑問が湧くことが多々あります。

事業予算の内訳が全額外注費となっている場合には、ディレクター役の方が存在するものですが、内訳が旅費や謝金といったパーツパーツで積算されており、全て公的機関が執行するタイプの事業の場合、存在しないものが多く見られます。

その場合は公的機関の方がディレクター役を担うことになるのですが、その方が仕切れる方かというのは、事業仕様を踏まえて人的リソースに関するやりとりをすると、だいたい判断できるものです。

なので、こうしたタイプの予算で構成された事業にアサインされ、「ディレクターが不在になる可能性がある」という可能性を感じた際には、第一回目の顔合わせの場で、ディレクション権限を誰が有し不在の場合にはアドバイザーが担うのか?を明確にし、仮に自分自身が担わざるを得ない場合には、ギャランティの扱いについても決定する必要があります。

ここで公的機関の方が勘違いしてしまいがちなのがアドバイザーの役割。あくまでも特定分野に対してアドバイスする役割であって、全体の進行管理を期待するのであれば、それはディレクターとしてアサインということです。

◆事業環境と結果をベストなものとするために、最初の顔合わせで役割分担は明確に!

事業を担う公的機関の方が最初から最後までディレクションができる方であれば、その方の仕切りでしっかりとチームは機能しますが、そうした方の存在は珍しく幸せな環境だと思います。

有識者にアドバイザーを依頼する場合にはディレクター役も含めて依頼するのか、それともディレクションに対するアドバイスを依頼するのか。

スタートの時点で役割分担を明確にすることで、発注者と受注者の両者にとっても事業を進めやすくなり、その結果、良好な結果が生まれる土台も築かれていくものです。